「DJ歴35年」「東海一のギネス級雨女」、そして「西国三十三所先達」。
これほど目を惹かれるプロフィールを持つ人物は、なかなかいない。
名古屋のクラブシーンで長年活躍するベテランDJでありながら、一方で、日本最古の巡礼路である「西国三十三所(さいごくさんじゅうさんしょ)」を巡りきり、他の参拝者を案内できる公式の資格「先達(せんだつ)」まで保有する。そんな異色の経歴の持ち主がDJ Candyさんです。

夜のクラブというエネルギッシュな「動」の世界と、静寂な寺社仏閣という「静」の世界。一見、真逆に見える二つの場所を行き来する彼女のライフスタイル、まさに「寺活×DJ」とも言えるその生き方には、情報過多な現代社会を生き抜くための、知りたかったヒントが隠されていました。
今回は、音のプロであり巡りのプロでもあるDJ Candyさんに、それぞれの現場で心をどのように「ととのえて(やすらギまって)」いるのか、その極意をたっぷりと伺いました。
■ラスベガスも降らせる、「ギネス級雨女」
──DJ歴35年、先達という肩書も強烈ですが、プロフィールにある「東海一のギネス級雨女」というのも気になりすぎます(笑)。
今日、名古屋の天気は大丈夫ですか?
DJ Candyさん(以下、Candy): あはは(笑)。いや、あまりに降られるんで雨の記録もつけてるんですよ。今まで14回海外に行って全部降られたんですけど、ラスベガスに行った時もまさかの雨でして。
──えっ、砂漠のラスベガスで!?
Candy: ラスベガスは砂漠気候なので流石に雨が降らないんですが、トランジットした韓国で台風直撃しまして。あぁ、やはり必ずどこかで雨に降られるんだな、と(笑)。小学校の遠足なんかも基本雨でしたし、国内でも初めて行く場所はまず降られますね。
──それはまさしくギネス級ですね…。となると、やはり巡礼の時も…?
Candy: はい、もう巡礼の時も結構雨とかありますね(笑)。お清めの雨だと思うことにしてます。
──それでも巡り続けるところが、超ポジティブですごいです(笑)。
■「負けず嫌い」が導いた、DJと先達の二刀流
──そんなバイタリティあふれるCandyさんですが、DJであり先達でもあるという、この二つの道はどのようにして交わったのでしょうか?
Candy: DJを始めたのは大学生の時で、中学校時代の同級生が先にDJをやっていて、チーフDJと二人で休みがないらしく「バイトしてみない?」とスカウトされたのがきっかけです。 当時は毎週末1000人くらい入るような大きなお店だったんですが、1年半したら上の人がいなくなってしまって。
気づいたら自分がチーフになり、大学も休学を経て退学する程のめりこんでました(笑)。
──まさかの代理からスタートで、いきなり現場を任されたんですね。そこから35年も第一線で活躍されているのがすごいです。では、一方の「巡礼」の道は?
Candy:若い頃から自分の老後というか将来について考えていかなきゃいけないな、と思っていた時期があったんです。
海外旅行、例えばマチュピチュとピラミッドとか見たい所はいっぱいあるけれど、余程のお金持ちでないと全部行くことはできないですよね。
それなら日本人としてせめて日本の名所ぐらい全部見たい!と思い、まずは月に1回はどこかお寺や神社に行ってみようか、という所から始まった感じがします。

──なるほど、将来を見据えた趣味として。そこから「先達」になるまで熱中されたきっかけは?
(※編集部注:「先達」とは、西国三十三所霊場(近畿2府4県と岐阜県)を巡拝し、札所会から認められた「公認の案内人」のことです。深い知識と経験を持って他の巡礼者を導く、いわば「巡礼のプロフェッショナル」です)
Candy: 最初は友人からのお誘いで兵庫県のお寺に行ったのですが、当時草創1300年で記念行事も開催されてましたし、性格が「負けず嫌い」なのか分からないですけど(笑)、「もう西国三十三所、コンプリートしてやろう!」ってなった感じですね。
──DJも巡礼も「巻き込まれ型」でスタートして、持ち前の熱量で極めていったんですね。DJという職業柄、レコードを集めるような「コレクション意識」や、その場のムードに合わせる感覚が、巡礼にも通じていたのでしょうか?
Candy: そうですね。コレクションとまでいうとアレかもしれないですね。やっぱりお寺さんや神社ごとに、ご本尊や御神体が違うじゃないですか。で、あと、唱えるご真言(しんごん/仏様の言葉)も違うじゃないですか。そういった神様や仏様、ごっちゃかもしれないですけど、そういった存在とお近づきになりたいなって感覚はあったのかもしれませんね。
(※編集部注:真言(しんごん)とは、仏教、特に密教における「真実の言葉」を意味するサンスクリット語「マントラ」の訳で、仏や菩薩の智慧や真理、功徳を音として表現した神秘的な言葉です。翻訳されずに音の響きで唱えられ、仏の力や教えを直接体験し、煩悩を滅して悟りへと導く力があるとされます)
──なるほど。そういった何か大きな存在とつながろうということは大事にしていたんですね。
Candy: 昔おばあちゃんにおまじないと言って教えてもらったのが実は真言だったのですが、お陰で小さい頃から仏教となじみがあったんだと思います。
あとはそうですね。私たち一人一人はちいちゃな存在ですよね。だけど大元は一つなんじゃないかと思っていて、最終的には神様か仏様かはわからないですけど人智を超えた大きな存在があって、私達がそこに所属しているような感覚はあります。

■「エネルギーを放出する」夜と、「充電する」昼
──エネルギッシュな「クラブの熱狂」と、静寂な「お寺の没頭」。この対照的な二つの時間を持つことは、Candyさんにとってどのような意味があるのでしょうか?
Candy: 自分の人生にとってどちらも大事なものですね。何か大きなものとつながることで、「日常の何かを忘れられる」「スッキリしたり幸せな気分になれる」という点ではどちらも同じかもしれませんね。DJの場合は、自分がお客さんを盛り上げるじゃないですか。音楽を手段としてエネルギーを外に向かって放出する時間ですね。
お客さんの笑顔が見たいが為に頭を使って全力で盛り上げる。
──なるほど、放出の時間。
Candy: 一方、お寺は静寂の中で自分と向き合って、エネルギーを「充電」する感覚です。私にとっては、クラブで放出する時間と、お寺で充電する時間、この両方のバランスが取れているのがいいのかもしれません。

■「やすらギまる」と、お散歩感覚のススメ
──今のお話、すごく核心を突いているなと思いました。まさに我々「寺イク?」が伝えたい、現代人が失いつつある大切な感覚なんじゃないかなと。
Candy: そうですね。
──我々は、お寺で心を整える究極の体験を「やすらギまる」と名付けて提唱しているんです。サウナブームで「整う」という言葉が一般化したように、お寺という場所が持つポテンシャルを、現代的な言葉で再定義したいなと。
Candy: なるほど、サウナの「ととのう」じゃないですけど、そういった言葉をつくる事によっていろんな人に興味を持ってもらえたらいいですね。
──具体的には3つのステップがあると考えています。1つ目は「日常のスイッチをオフにする」。境内という非日常空間に入ることで、スマホを見ようとも思わなくなるような感覚です。2つ目は「没頭する」。読経でも座禅でも、その場の儀礼や空間に集中すること。
Candy: はい。
──そして3つ目が、Candyさんが仰ったような「大きな存在にゆだねる」ことです。仏様や歴史の重みといった偉大な存在の前に立つと、自分の悩みなんてちっぽけに思えてくる。そうやって身を任せることで、深く癒やされるんじゃないかと。この「やすらギまる」の感覚、先達でもあるCandyさんから見ていかがでしょうか?
Candy: すごく分かります。私自身、何か崇高な目的がないといけない、ということではなくて、「ちょっと(行ってみようか)」みたいな感覚なんですよね。お散歩するついでに、結果的になんかもう気持ちよくなっちゃった、スッキリした、というような。
──なるほど、もっと自然体な。
Candy: そうです、そうです。そういう気軽な感覚で、お寺さんがもっとみんなの身近な存在になればいいなとは思いますね。

■クラブも読経も、「音」の洪水に没頭する体験
──では、そんなCandyさんご自身の具体的な「やすらギまる」ルーティンを教えていただけますか?
Candy: まずは、日常から切り離された神様・仏様の場所へ「お邪魔します」という気持ちで一礼して入ります。そして手水(ちょうず)で清めますね。
あと、お寺さんの場合は特に「読経」を大事にしています。私はあまり記憶にないのですが、実は父の実家がお寺さんだったんですよ。
──えっ、そうなんですか! ルーツがあったんですね。
Candy: だから、小さい頃からそういう要素がちょっとあったのかなと思います。
真言では「音」に意味があるから声に出して唱えるとご利益があると言われてます。私は時間がない時でも、そこに祀られているご本尊の「真言(しんごん)」だけでも必ず声に出して唱えるようにしています。
──やっぱり、声に出すことで感覚は変わりますか?
Candy: そうですね。お腹から声を出してお経を読むと、頭が空っぽになってスッキリする感じは間違いなくあります。
──いや、すごく共感します! 実は私も、座禅より断然「読経派」なんです(笑)。座禅って雑念を払うのが難しいんですけど、読経は声を出してリズムに乗ることで、強制的に没頭できるというか。
Candy: あはは、それすごく分かります!(笑)
──以前、朝のお勤めに参加した時、知っているメジャーなお経が流れてくるとテンションが上がって。「これって、クラブで好きな曲がかかった時の感覚と同じだ!」って思ったことがあるんです。
Candy: まさにそうですね!(笑) DJも、音の環境や体験そのものをデザインする仕事なので、そういう「音に没頭して空間を味わう」という点では、すごく近い感覚があるのかもしれませんね。
──お寺という空間で、音の洪水に身を任せて没頭する。それが結果として、究極の「やすらギまる」体験につながっているのかもしれませんね。いや、すごく腑に落ちました。コッソリおすすめしたいお寺はありますか?
Candy: 東海エリアでしたら西国三十三所の三十三番札所で満願霊場でもある岐阜県の谷汲山(たにぐみさん)華厳寺は歩いているだけで来てよかったなと思えるような場所ですね。、桜や紅葉の時期も名所として有名なので、お散歩にもお勧めなお寺さんです。

■現代人こそ、情報を遮断して山の空気を吸おう
──最後に、普段はクラブで遊んでいるような若い世代に向けて、先達DJとしてメッセージをお願いします。
Candy: 今の時代、10年前と比べても、みんなスマホから受け取る情報量がすごく多いと思うんです。
知らず知らずのうちに疲れてしまっているんじゃないかな。だからこそ、たまには情報を意識的に遮断して、「ちょっとゆっくりしてみない?」「気を抜いてみない?」と伝えたいですね。特に山の上にあるようなお寺は空気が全然違うので、そこでただ深呼吸をするだけでもすごくリフレッシュできるはずです。デジタルデトックスして欲しいですね。
──本日は、あまりに共感できる話ばかりで驚きました。本当に貴重なお話をありがとうございました!
■編集後記&新連載決定!
DJブースでの熱狂と、寺社での静寂。一見、対極にある二つの世界を軽やかに行き来するDJ Candyさんの姿からは、現代社会で生きる誰もが必要となる心をコンディショニングするヒントを教えてもらえました。
エネルギーを放出する時間と、静かに向き合って充電する時間。この絶妙なバランス感覚こそが、35年間も第一線で輝き続ける秘訣なのかもしれません。
そして、ここで嬉しいお知らせです!
インタビューでも「音(真言)」の大切さを熱く語ってくれたDJ Candyさんによる新連載コラム、「DJキャンディーの今月の真言(仮題)」が寺イク?でスタートすることが決定しました。
音のプロが選ぶ、心に響くマントラの世界。どうぞお楽しみに!

PROFILE
DJ Candy(DJ / 西国三十三所先達)
名古屋を中心に活動するDJ歴35年のベテラン。自他共に認める「東海一のギネス級雨女」。将来を見据えた趣味として寺社仏閣巡りを始め、西国三十三所先達の認定を受ける。「動(クラブ)」と「静(巡礼)」の現場を行き来しながら、独自のスタイルで心のクレンジングをしている。
写真提供・DJ Candy
文・KENLOCK(寺イク?)
編集・KENLOCK(寺イク?)