株式会社神社仏閣オンライン代表取締役・河村英昌さん
僧侶でありながら、起業家、そして現役のサラリーマンという3つの顔を持つ河村英昌さん。彼が運営するメディア「神社仏閣オンライン」は、お寺と神社の垣根を超え、伝統文化を現代的なエンターテインメントとして発信する、今最も注目されるプラットフォームの一つです。

河村英昌さん
なぜ、彼は僧侶という枠を超えて活動するのか? そして、現代人にとって本当に必要な「寺活」とは?
『寺イク?』が、その熱い想いと、そして立ち上げの裏にあるリアルな苦労話まで、徹底的に迫りました。
■3足のわらじを履く、スーパーハイブリッド僧侶
— まず最初に、シンプルに驚かせてください。…いつ寝てるんですか?(笑)
河村: (笑)
— 僧侶であり、メディア運営企業の社長であり、そしてサラリーマンでもある。リサーチしていて耳を疑ったんですが、今もサラリーマンを続けられているんですよね?
河村: はい、続けています。家族もいますし、生活の安定という側面ももちろんありますが、それ以上に「サラリーマンじゃないとわからない感覚」を持ち続けることが重要だと考えています。

— なるほど、あえてその立場を維持していると。
河村: もちろん生活のためもありますけど(笑)お坊さんという立場上、経営者から会社員まで様々な方のお話を聞く機会があります。その時、私自身がサラリーマンとしての感覚を失ってしまうと、働く人々のリアルな悩みに寄り添えなくなってしまうのではないかという不安があるんです。両方の視点を持つことで、より説得力のあるお話ができるのではないかと考えています。
■熱源を探る。「なぜ、僧侶がそこまでするのか?」
— 常に現代人の視点を持ち続けるためなんですね。ご実家のお寺で僧侶として生きる道もある中で、わざわざ起業してメディアを立ち上げた。そこには、ご自身の僧侶としての役割を「お寺の中だけでなく、発信できる場を作ることだ」と定義し直した瞬間があったのでしょうか?
河村: 現代において、特に地方ではお寺だけで生計を立てるのは難しいという現実もあります。でもそれ以上に、一度社会に出て様々な経験を積むことが重要だと考えました。当初は公認会計士を目指していましたが、紆余曲折を経てサラリーマンになりました。YouTubeチャンネルは、2019年の 12月とかにスタートしたんですけど、その時がまさにコロナの船が港に着いて大騒ぎしていたときで、これから世の中が暗くなるぞみたいな雰囲気が漂っていました。私自身がボーカロイドであったりとか、昔から動画編集自体はやっていたので、できると知ってる人がいまして、お寺とか神社の発信とかっていうのは、最初はお寺の方からの声掛けだったんですけども、せめて中の人の想いだったり、正しい歴史であったりとか、このあたりをメディアとして残していきたいなと想いが出てきたので、YouTubeを始めました。

— ここが一番聞きたかったのですが、僧侶である河村さんが、なぜメディア名にあえて『神社』を入れたのでしょうか?
河村: きっかけは京都検定という資格の勉強を通じて、一つ一つ違う神様だったりする神社の面白さに目覚め、神社検定を受けるほど熱中したことです。特に伏見稲荷大社には何度も足を運びましたね。そこで痛感したのは、「日本の歴史上、お寺は神社なしでは語れない」という事実です。
— お寺生まれの河村さんが、神社の重要性に気づいた。
河村: はい。神仏習合の歴史、境内の構造、御朱印など、様々な点で両者は深く結びつき、支え合っています。この相互に補い合う関係性を「なくしたくない!」という強い想いが、メディア名に「神社」を入れた決定的な理由です。
■ゼロからの挑戦。メディア立ち上げのリアルな苦労
— 今でこそ順調そうに見えますが、立ち上げ当初は相当なご苦労があったのではないでしょうか。お寺の生まれとはいえ、神社のつながりはあったのでしょうか?
河村: いえ、神社のつながりは完全に「ゼロ」でした。2019年当時、YouTubeに出演してくれる神職の方なんてほとんどいなくて。ひたすら知り合いをたどって、ようやく大阪の服部天神宮さんに出ていただけた時は、本当に嬉しかったですね。

— まさに泥臭い開拓ですね。メディアの方向性として、「一次情報」にこだわった理由は何だったんですか?
河村: 当時、いろんな発信者が増えていた時期で、中には神社仏閣側から見て「ちょっと違うな」と感じるような、誤解を招く表現も散見されました。そういう情報が独り歩きして、変な形で神社仏閣が消費されるのが嫌だったんです。だからこそ、自分が聞きかじった情報ではなく、中にいる神職や僧侶の方々が直接語る言葉、つまり「一次情報」を届けることにこだわりました。
— なるほど、強い信念があったんですね。でも、お寺への取材交渉も大変だったのでは?
河村: めちゃくちゃ大変でした(笑)。特に大きなお寺になるほどハードルが高くて。企画書を作って丁寧に依頼しても、「前例がない」「品位が下がる」と断られることの連続でした。それでも諦めずに、想いを伝え続けて今に至ります。
— どうしてもそこまで諦めずに熱中できたんでしょうか。
河村:やっぱりやる人がいない分野っていうのは大きいかもしれません。お寺神社と繋がりたいけども繋がってないっていう分野ってすごい多いなって想いがあるんです。一方でお寺神社からも、どうしようみたいな感じの声も多く聞く中で、こういう状況が見えている人がいないなら、私が動くしかないかみたいな、使命感みたいなとこからやっている時もありますね。
■伝統を現代へ。「エンタメ翻訳」の技術論
— そんな苦労を経て、今は神社仏閣のVTuberコラボなど非常に現代的で柔軟な企画をされていますね。伝統を現代人に「自分事」として届けるための、河村さん流の「翻訳術」を教えてください。

河村: 私はもともとアニメ好きで好奇心が旺盛なので、常に新しい情報をインプットして、それを神社仏閣と結びつけられないかと考えています。ただ、心がけているのは、「誰も傷つけないエンターテインメント」です。
— 誰も傷つけない、ですか。
河村: はい。伝統文化を現代風にアレンジする際、それが誰かを悲しませたり、「あそこを壊さないでほしかった」と言われるようなものにならないよう、細心の注意を払っています。伝統と革新のバランスを見極めることが重要ですね。
— なるほど。そのバランス感覚が信頼される理由なんですね。ところで、ちょっと素朴な疑問なんですが、僕たち一般人はお寺に行くと心が安らいだりしますよね。お坊さん自身も、お経を読んだりして「安らぐなぁ」って感じることはあるんですか?
河村: もちろん、お経を読んで安らぐことはありますよ(笑)
— あ、やっぱりあるんですね!(笑)それを聞いて安心しました。
■「中の人」の視点と、リアルな寺活事情
— 「寺イク?」では、そういう「安らぎ体験」をもっと多くの人に知ってほしいと思うんですが、例えば誰でも参加できる読経イベントって、意外と少ないですよね。お寺側にはどんな課題があるんでしょうか?

河村: 一つには、お寺側に「体験させたい」というモチベーションがまだ低いという現状があります。どうやっていいか分からない、やる意味が分からない、という声も聞きます。多くのお寺が、通常の法務で手一杯で忙しい、そして檀家さんへの教化活動は行なっているので、それ以上というのが手が回らないのが現状です。お経をエンタメ的に扱うことで「品位が下がる」と懸念される方もいらっしゃいます。神社さんが祝詞(のりと)を神聖視するのと同じですね。もし、気軽に読経体験をしたいなら、どの宗派でも本山といわれるお寺に行けば、朝の読経には参加できたりするので、おすすめです。
— なるほどモチベーションの問題も根強そうですね…まずは本山の読経イベントに参加というのはハードルが低そうでいいですね!ありがとうございます。そういった難しい状況の中で、河村さんはどんな仕掛けをしようとしているんですか?
河村: 私はやはり「エンタメ」が一番の鍵だと思っています。一方で、今トレンドになっている「終活」や「エンディングノート」といった分野には、正直あまり興味がなくて(笑)。もちろん重要なことですが、私はもっと「誰も傷つけないエンタメ」で、気づいたら仏教や神道に触れていた、という世界を作りたいんです。
■未来のトレンドとメッセージ
— ここで『寺イク?』読者が明日から気軽に試せる、おすすめの「最新寺活」を是非一つ教えてください。
河村: お祭りに行くのが一番おすすめです。地域の人々の声を聞き、その土地の文化や歴史に触れることができます。お寺のお祭りも、数は少ないですが、開催されているところがあればぜひ参加してみてください。節分の時期などは狙い目です。

— お寺でもお祭りがあるというのはあまり知らなかったです。お祭りから神仏に触れてみるというのは、まさにエンタメ観点で、とてもとっつきやすくていいですね。 最後に今後、河村さんの将来の構想を教えてください。
河村: 「気づくと仏教だった」「気づくと神道だった」というような、エンターテインメントを通して自然に神仏に触れられる機会を増やしていきたいですね。
— すごく共感できます。楽しいエンタメに触れて、自然に興味を持つ人が増えていったらすごく素敵ですよね。本日は本当に貴重なお話ありがとうございました!
PROFILE
河村英昌(かわむら えいしょう)
1993年生まれ、京都大学法学部卒。浄土宗 大光寺副住職。株式会社神社仏閣オンライン代表取締役。会社員。「仏教・神道を『Your Story(他人事)』から『My Story(自分事)』へ」をコンセプトに、メディア運営、イベント企画、商品開発など幅広く活動。
写真提供・神社仏閣オンライン
文・KENLOCK(寺イク?)
編集・KENLOCK(寺イク?)