「最初に正直に言っておきます。悩みに対する正解はそんなに出していません。」
そんな前置きから始まる異色のお悩み相談本が、タイパで答えを求める現代に一石を投じています。言わずと知られるフリーアナウンサーで、喋り屋・古舘󠄁伊知郎さんのYouTube企画を書籍化した『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』です。50年のアナウンサー人生を経てきた古舘󠄁さんが、人々の悩みに「煩悩まみれ! 惑い上等!」で答える本作。なぜ今、YouTubeでのトークをあえて「書籍」という形で世に送り出したのでしょうか。

今回は、本作の編集を手掛けた株式会社小学館集英社プロダクションの小野みずきさんにインタビュー。「実況」がもたらす客観視の力や、タイパ(タイムパフォーマンス)を求められがちな現代にこそ味わいたい、“一直線ではない寄り道”の魅力について伺いました。
■喋り屋の「生き様」を書籍化するまで

── 古舘さんのYouTubeチャンネルは多種多様ですが、あえて「お悩み相談(煩悩)」をピックアップして書籍化しようと思われたのはなぜですか?
小野: 元々、編集部のメンバーとの打ち合わせの中で、古舘さんの本を作りたいという話がありました。古舘󠄁さんは50年のキャリアを経て、「喋り屋」として確立されている方で、その人生観や生き様を見せる本を作りたいという思いがまずありました。 そんな中、YouTubeチャンネルで「お悩み相談」の企画を立ち上げられて公開されていたのを見たんです。古舘󠄁さんってお悩み相談のイメージが全然なかったのですが、アナウンサー人生での長年の経験や修羅場を経て、質問者の切実な悩みを聞いたときにどんな言葉が出てくるのかにすごく興味を持ち、この企画を本にしましょうとお声がけしました。
■10秒で始まる即興の語り。モヤモヤを俯瞰する「実況」の力
── 古舘󠄁さんの回答には、今の時代や若い人に刺さる魅力があると思うのですが、どうお考えですか?

小野: 古舘󠄁さんの発する言葉はありきたりではなく、ご自身の経験や興味に基づいたご自身の中から生まれた言葉なので、すごく説得力があります。 取材中にびっくりしたのが、古舘󠄁さんは当日の取材直前にリストの中から「今日はこれとこれ」と質問を選んで、読んでから10秒後にはもう話し始めるんですよ。ほぼ全て即興で、YouTubeの打ち合わせ後すぐに収録を始めていました。その即興やライブ感が魅力だと思い、それが伝わるような本にしたいと思って作っていきました。
── 古舘󠄁さんは仏教的な視座も深く、執着を手放すなど優しい観点があると思うのですが、そういう部分はどのように感じられましたか?
小野: 古舘󠄁さんご自身が仏教的であることを強く意識して話されているかは分かりませんが、相談者のモヤモヤをすごく客観的に捉え直していると感じます。仏教や宗教に触れて自分自身を客観視することと、古舘󠄁さんの本業である「実況」で状況を俯瞰して見ることは、まさに同じことなのかなと思います。
■悟った人としてではなく、同じ目線で悩む「煩悩の塊」として
小野: また、ご自身を「煩悩の塊」と呼び、71歳の今でもメディアにもっと出たいと欲に生きている姿を見せてくれます。悟った人からのアドバイスではなく、「自分も煩悩の塊なんで一緒に悩みましょう」という同じ目線に立って聞いてくれるスタンスが、古舘󠄁さんらしいところだと思います。

── 制作過程で特に印象に残っているエピソードはありますか?
小野: ご自身の子育てでの後悔や失敗など、プライベートな部分や「素」の部分も赤裸々に話してくださったことがすごく印象に残っています。今までプライベートなイメージがなかったところで、悩みの回答としてご自身の避けられない部分を見せてくれたので、余計に説得力が増していると思います。
■タイパの時代だからこそ、「一直線ではない寄り道」を楽しむ
── この本はどんな読者に読んでほしいですか?
小野:20代から年配の方まで幅広く相談が来ていたので、年齢や性別でターゲットを絞ることは全く考えていません。人生の中で言いようのないモヤモヤや、人には言えない悩みを抱えている人に読んでほしいです。お悩み相談という形をとっていますが、自分の人生を語っているという意味で、古舘󠄁さんのエッセイのようにもなっていると思います。

── 読者にはどのような読み方をしてほしいですか?
小野: どこから読んでも面白いので、気になるお悩みから読んでいただければと思います。どのエピソードもズバッと解決策が示されるわけではなく、最後まで読んでも何が解決したのかわからないこともあります。 しかし、その一直線ではない寄り道をする古舘󠄁さんの喋りが、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視してすぐに答えを求める今の20代・30代の方には逆に新鮮で、楽しんでもらえるのではないかと思っています。ゆったりしながら本を読む体験を通して、そういう楽しみ方もあるんだと再発見してもらえたら嬉しいです。

── 小野さんが一番お気に入りのエピソードは何ですか?
小野: 私が20代ということもあり、「20代だったらどんなスキルを身につけたいですか?」という質問に対する立川談志さんとのエピソードです。目の前の仕事をやっていくしかない、その先になりたいものが見えてくるという言葉が、今の私に一番しっくりきました。
── 一緒に本を作ってみて、古舘󠄁さんはどんな人だと感じましたか?
小野: 「煩悩の塊」であり、単に欲深いだけでなく、「もっと知りたい」という知識欲や向上心にあふれる方だなと思いました。
■語りが完成されているからこその苦労
── 制作期間はどれくらいかかったのですか?
小野: 企画自体は1年以上前(夏くらい)から動いていました。実際に本を作りましょうと言ってからが長かったです。YouTubeの収録には1回につき3時間ほど立ち会い、それを何回も繰り返して作っていきました。

同席スタッフ: 実は、原稿をどうまとめていくかが一番大変でした。元の原稿は今の倍くらいあって、古舘󠄁さんの語りが完成されているからこそ、どこを削るか泣く泣く判断したんです。本には載せられなかった良い話もたくさんあるので、元のYouTube動画も併せて見ていただくのが一つの楽しみ方だと思います。
── 色々な読み方、楽しみ方ができるのもこの本ならではの魅力ですね。本日貴重なお話しありがとうございました!
YouTubeチャンネルにて、まだまだお悩み募集中!
「古舘󠄁伊知郎の煩悩チャンネル」では、引き続き視聴者からのお悩みを募集しています。誰かに聞いてほしいこと、ずっと心にしまっていたこと、皆さまの「モヤモヤ」をぜひお寄せください!
【古舘伊知郎の煩悩チャンネル】
https://youtube.com/@furutachi_ichiro_bonnou?si=V5lhm8r37O6hWGV0
【著者プロフィール】
古舘󠄁伊知郎(ふるたち・いちろう)
1954年東京都生まれ。1977年にテレビ朝日へ入社し、プロレス中継で独自の語り口を確立。
1984年にフリー転身後は、F1中継、 バラエティ番組、さらに『報道ステーション』のメインキャスターまで、ジャンルを横断して活躍。NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。
現在は、テレビ・ラジオへの出演はじめ、YouTube『古舘󠄁伊知郎チャンネル』、トークライブ「トーキングブルース」、対談ライブ 「古舘󠄁と客人と」 など、自由な喋り手として活躍中。
著書に『喋り屋いちろう』(集英社) 、『伝えるための準備学』(ひろのぶと株式会社)などがある。
書籍情報
著者:古舘󠄁伊知郎
仕様:四六判・並製・368頁・本文1C
定価:1,980円(10%税込)
発売予定日:2026年3月12日
ISBN:978-4-7968-7470-0
発売元:小学館集英社プロダクション
【PROFILE】小野 みずき(おの みずき)
株式会社小学館集英社プロダクション(ShoPro) メディア事業本部 商品企画事業部 出版企画事業グループ 出版企画2課 編集。2024年8月に同社へ入社。文芸・イラスト・児童書などジャンルを越境した多彩な企画を手掛ける。担当作に、古舘󠄁伊知郎『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』など。
写真/KENLOCK(寺イク?)
文・編集/KENLOCK(寺イク?)