「深谷のお寺でサーカスをやるから、是非、来てください」
『寺イク?』の監修メンバーである草野さんからのお誘いだった。今回のサーカスの開催場所である寺院とサーカス団を繋いだという草野さんは、「寺社フレンズ」というコミュニティの代表でもある。
「お寺でサーカス、なんで?」
僕は、頭の中に大いなるハテナを浮かべたまま、埼玉県の深谷市に向かった。新一万円札の顔・渋沢栄一の生誕の地として知られる深谷市。まるで東京駅のような外観をした駅舎が印象的だ。ロータリーまで車で迎えにきてくれた草野さんと落ち合うと、開催場所の瑠璃光寺へとゆったりと走り出した。



道中、ハンドルを握る草野さんから今回の経緯を聞く。聞けば、今回出演する「ゴールドサーカス」は、日本に数少ないサーカス一族の4代目団長が率いる老舗のプロ集団。彼らは「和とサーカスの調和」をコンセプトに、あえて神社仏閣をメインに活動の幅を広げようとしているらしい。
「でも、文化財でもある境内に足場を組んで興行を打たせてくれるお寺なんて、そう簡単には見つからないんですよ」と草野さんは笑う。そんな彼らの熱意と、瑠璃光寺の「寺嫁」のオープンな想いが重なり、この前代未聞の企画が実現したのだという。
車窓の景色が少しずつ長閑になっていく。やがて舞台となる「瑠璃光寺」へと到着した。



■ 静寂の古刹に現れた「異空間」に心を奪われる
瑠璃光寺は、大同2年(807年)の開基というから、実に1200年もの歴史を持つ天台宗の大寺院だ。薬師堂と本堂の間には約30メートルもの渡り廊下が架かり、中央が太鼓橋になっているという、なんとも立派で珍しい木造建築が出迎えてくれた。

そして、その厳かな境内のど真ん中に、サーカスのステージと高い足場が組まれていた。


出店もあり、普段とは異なるであろう不思議な熱気がただよう中、続々と観客が集まってくる。賑わいやがてアップテンポな音楽と共にショーが幕を開ける。


足場から吊るされた布を使って空を舞うエアリアル。チンドン屋の幕間のあたたかな空気づくり。目を疑うスピードで繰り広げられたジャグリング。クラウンのコミカルで少し切ない狂言。息を呑むローラースケートのアクロバット。そして、一瞬にして仮面が変わる中国の伝統芸能「変面」。

















静寂に包まれるはずのお寺に、観客の大きな歓声と拍手が響き渡る。
驚いたことに、この光景には全く「違和感」がなかった。むしろ、長い年月を経た美しく静寂な木造建築と共存することで、パフォーマーたちの躍動する肉体美がより一層際立って見えるのだ。
「海外の演者がメインだから尚更、日本の空間が際立つんです」という団長の言葉の意味が、理屈ではなく感覚として腑に落ちた。気がつけば私は、時間を忘れてステージに完全に心を奪われていた。
■ 寺嫁・永島のりこさんが教えてくれた「仏道とサーカス道」の共通点
興奮冷めやらぬ終演後、この類を見ない企画を快諾した瑠璃光寺の「寺嫁」である永島のりこさんにお話を伺うことができた。

瑠璃光寺の寺嫁・永島のりこさん
「よくお寺でサーカスなんて許可しましたね」と水を向けると、のりこさんはふわりと笑って、思いもよらない言葉を口にした。
「サーカスに出ている人たちは、肉体の限界に挑戦していますよね。実はお坊さんも、修行で自分の肉体の限界に向き合って乗り越えていくんです。演者さんもお坊さんも、同じ『修行』をしている。だから、お寺でサーカスをすることに全く違和感は感じなかったんですよ」



その言葉にハッとした。天台宗といえば、比叡山での想像を絶する過酷な修行で知られる。極限まで己の肉体を追い込み、その先にある精神的境地へ至るというプロセスにおいて、仏道とサーカス道は完全にリンクしているというのだ。
「これからは物の時代ではなく、心の時代がやってくる」と直感し、30年前にこのお寺へ嫁いだというのりこさん。お寺には「気軽に来ていい。癒されに来てほしい」と語る。

その言葉通り、瑠璃光寺ではマルシェや癒しフェス、認知症カフェなど、地域の人々が自然と集い、笑顔になれる取り組みが次々と行われている。そんな長年の地域貢献活動が評価されたのだろう。のりこさんは、周囲に推されるかたちで、来年の選挙に出るのだというが、納得であった。さらに驚いたことに、本日の変面を披露した圧巻の演者は、のりこさんの娘さんだったのだという。瑠璃光寺の女性たちの活躍、恐るべしであった。
■ 帰りの車内で聞いた、演者たちの「純粋な動機」
少しだけ日が柔らかくなってきた帰り道。縁あって、都内からゲスト出演のため来られたというサーカスの演者さんたちを、草野さんの車に乗せて送っていくことになった。
ステージ上では超人のようなパフォーマンスを見せていた彼女らだが、車内で話す素顔はとても気さくで等身大の若者たちだった。
「なんでサーカスをやろうと思ったんですか?」
助手席から後ろを振り返ってそう尋ねると、少し照れくさそうに答えが返ってきた。
「近くに体操とかが見れる施設があって、それを見て関心を持ったからですね」
そのシンプルで素朴な言葉に、なんだか胸が熱くなった。
肉体の限界を超える修行。それを突き動かしているのは、高尚な理屈でも何でもなく「ただ好きだから」「面白そうだったから」という、とても純粋な好奇心なのだ。
お寺とサーカスの組み合わせは初めてなのに不思議と懐かしく感じられ、遠く昔の童心に戻れたような気持ちになった。
行きとは違う充足感を抱えながら、草野さんの運転で深谷駅に到着する。綺麗な青空を遠目に東京への帰路につく。


お寺は静かに祈るだけの場所ではない。圧倒的なエンターテインメントに心を奪われ、ただただ手を叩いて、笑顔になって驚いてもいい。そんな風に寛容に包み込んでくれるお寺時間こそ、現代人に必要な癒やしのひとときなのかもしれない。
草野さん、誘ってくださり、本当にありがとうございました。また必ず、この不思議な空間に寄り道しに来ようと思った。
【INFORMATION】
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ゴールドサーカス
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「和とサーカスの調和」をテーマに神社仏閣で公演を行うプロ集団。エチオピア出身の世界レベルのパフォーマーと日本人が共に創り上げる日本発のサーカス団です。 ジャグリング、アクロバット、エアリアルシルク、ローラースケートなど多彩な演目で、 二つの文化が融合した圧倒的なスペクタクルを届けています。
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「寺イク?」監修の草野さんが、サーカス興行させてくれるお寺を探しています。お問合せはお気軽にどうぞ。
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【PROFILE】
永島 のりこ(ながしま・のりこ)
深谷山 瑠璃光寺 寺庭婦人(寺嫁)
日本女子体育大学を卒業後、育英短期大学にて「身体表現」の担当教員を務める。1997年より瑠璃光寺へ入り、お寺を地域に開かれた「癒やしの場」にするべく尽力。
民生児童委員を12年(4期)務め上げたほか、保護司や保育園理事など地域福祉にも深く貢献している。さらに、社会福祉士、宅地建物取引士といった国家資格をはじめ、ヨガ(RYT200)、マインドフルネス講師、ヒプノセラピートレーナー、香司、占い師(算命学・紫微斗数など)に至るまで、心身のウェルビーイングに関わる多岐にわたる資格を保持。