「スマホを置いて空間を浴びる。京都住みの私が見つけたウェルビーイングな『寺活』のすすめ」
ある日、いつものようにnoteを見ていた編集長。発見したこの記事のタイトルに、目を奪われました。
「空間を浴びる」──。それはまさに、理屈を超えてお寺の空気に浸る心地よさを言い得ていたからです。

記事の筆者は、京都を拠点に活動する一級建築士の山田さん。日々の仕事や情報過多な現代社会に疲れを感じた時、自然とお寺に足を運び、心をリセットしているといいます。
note記事の中でも、我々が提唱する「寺活(てらかつ)」という言葉に出会い、「点と点が繋がった」と綴ってくださった山田さん。
今回は、建築のプロフェッショナルな視点から見たお寺の魅力と、ご自身が実践する自然体なスタイルについて、たっぷりとお話を伺いました。そこには、初心者でもすぐに真似できる、究極の「やすらギまる(※)」ヒントが隠されていました。
(※編集部注:やすらギまる…お寺の静寂な環境で日常のスイッチをオフにし、空間や体験に没頭し、環境に身をゆだねることで得られる、深いやすらぎの境地のこと。寺イク?の造語)
(聞き手:「寺イク?」編集部)
■無意識の習慣に「名前」がついた瞬間
──まず、編集部一同、山田さんのnote記事を拝読して大変感動しました。「スマホを置いて空間を浴びる」という表現も素敵ですし、我々の「寺活」という言葉に出会って「点と点が繋がった」と書いてくださっていて。
山田さん(以下、山田): ありがとうございます。僕も「寺活」の記事を見つけた時は驚きました。自分自身の習慣として、疲れた時や情報を見たくない時に、ふらっとお寺に行ってぼーっとするということをしていたんです。それが言語化されて、「これこれ!」と腑に落ちたというか、嬉しくなりましたね。

──もともと、どのようなきっかけでお寺に通われるようになったのですか?
山田さん: 最初は建築の勉強のために訪れていました。でも、仕事でストレスが溜まったり、情報過多で脳が疲れたりした時に、体が自然とお寺に向かうようになったんです。
特定の「推し寺」があるわけではなく、「今日はあそこに行きたい気分だな」「今回はちょっと違うところに行ってみようかな」という感じで、その時の自分の状態に合わせて場所を選んでいます。
──お寺で「空間を浴びた」後は、どんな変化を感じますか?
山田さん: 帰り道がすごく清々しいですね。普段生活していると呼吸が浅くなりがちなんですが、お寺に行ってぼーっとした後は、深呼吸ができるようになる感覚があります。
──まさに「やすらギまる」感覚ですね。大谷翔平選手も「何もしない間(ま)が必要だ」と言っていましたが、現代人にはそういう時間が必要不可欠なのかもしれません。
山田さん: 本当にそうですね。意識的に情報を遮断して「何もしない」時間を持つことが、結果的に自分をリセットすることに繋がっていると感じます。
■建築家流「やすらギまる」は、氷が溶けるようにジリジリと
──寺イク?では「オフする・没頭する・ゆだねる」という3ステップで「やすらギまる」ことを提唱しています。山田さんはこのステップについて、どう感じられましたか?

山田さん: 正直に言うと、僕の場合は「何か(ステップ)をする」ということをあまり意識していなくて。ただひたすら「ぼーっとする」ということを大事にしているんです。
──なるほど、ステップの2つ目「没頭する」に特化している感覚でしょうか。
山田さん: そうですね。ぼーっと行って、ぼーっと帰るんですけど。サウナだと明らかにオンとオフがパキッと分かれていると思うんです。なんとなく、自分の中の氷が溶けるように、ジリジリと日常に戻っていく。で、気がついたら「やすらギまっていた」そんな感覚なんです。
──うわっ(感嘆)それはかなり「やすらギまる」才能がありますね。
山田さん:人それぞれ手法が違うなとは思うんですが、僕みたいにあまり意識せずに、ただその場に身を置いて「没頭」するだけでも、十分スッキリやすらギまれるんじゃないかなと思います。
──その「没頭」を深める上で、建築家ならではの視点はありますか?
山田さん: ありますね。特に京都のお寺の場合、目的はほぼ「庭」だと思っています。例えば「借景(しゃっけい)」といって、塀の向こうにある遠くの山や景色を、まるで庭の一部のように取り込む技法があります。そういう知識を持って見ると、知的好奇心も刺激されて、より深く見入ってしまうんです。
──知的な面白さが、没頭を助けてくれるんですね。
山田さん: ええ。最初はそういう知的なドーパミンが出てやすらぐ感じなんですが、同じ場所に2回、3回と通うと、今度は知識を超えて、ただその空間に深く馴染んでいくような、違う種類の安らぎに変わっていくのも面白いところです。
■「山の上」で出会う、真の自分
──知識を超えて空間に馴染んでいく感覚、素敵ですね。では、山田さんがこれまでで一番「やすらギまる」を感じた、忘れられない体験はありますか?
山田さん: そうですね…。特に印象に残っているのは、たどり着くまでのプロセスが長い、山の上にあるようなお寺ですね。

──山の上のお寺、ですか。
山田さん: はい。どうしても観光客が多い場所だと、少し心がざわついて、やすらギまるどころじゃないこともあるんですが(笑)。人が少ない静かな山の上に行くと、「本当に自分と向き合えている」ような気がして。そういう場所の方が、深くやすらいだ記憶として強く残っていますね。
──なるほど。日常から物理的にも離れることで、より深い没頭が生まれるのかもしれませんね。
■計算された「心理操作」に心地よくハマる
──お寺の空間には、人を没頭させるための「仕掛け」があるのでしょうか。
山田さん: 実は、お寺の空間は訪れる人の心理を操作するように、かなり意図的に作られています。
例えば、南側に建物を配置して、北側にある庭を順光で見せるようにしたり。明るい場所と暗い場所のコントラストをつくったり。

──なんと、心地よさは計算されていたんですね!
山田さん: そうなんです。景色の移り変わりとともに、自分の心情も「あ、心地いいな」「ここはちょっと緊張感があるな」と変化していく。その意図された心理操作を感じながら、心地よくその術中にハマって巡るのが、お寺の醍醐味であり、没頭への近道だと思います。
──日常のスイッチを「オフ」にする仕掛けもありますか?
山田さん: 一番スイッチが入るのは、「山門(さんもん)」をくぐる瞬間だと思います。住宅でも門があるかどうかは重要で、門をくぐると心理的に「自分の領域に入った」と感じますよね。
お寺の山門はまさに結界のようなもので、「ここから非日常が始まるぞ、映画が始まるぞ」という緊張感と期待感を与えてくれる、優れた装置だと思います。
■禅のパラドックス。「見ようとする」けれど「手放す」
──そうした計算された空間、特に禅寺の庭園などでは、「見る」という行為そのものにも深い意味がありそうですね。
山田さん: そうですね。例えば禅の庭(枯山水など)には、設計者が意図した「視点場(してんば)」というものが存在します。「ここから見てほしい」というベストポジションですね。
──なるほど、正解のアングルがあるんですね。
山田さん: ええ。それを「見ようとする」能動的な姿勢も、没頭の一つです。でも、面白いのがここからで。
──ほう、と言いますと?
山田さん: 禅の考え方では、「見よう、理解しよう」と作為的になりすぎると、かえって本質から遠ざかることがあるんです。意図されたものを探しつつも、最終的にはその作為すら手放して、ただあるがままの空間に身をゆだねる。

──「見ようとする」けれど、最後は「手放す」。
山田さん: はい。そのパラドックス(逆説)みたいなものが、お寺という空間には内包されている気がします。計算された意図と、それを超えた自然な在り方。その狭間に身を置くことが、深いやすらぎに繋がるのかもしれません。
──つまり没頭しようと思ってするのでなく、環境に身をゆだねることで、いつの間にか没頭していてやすらギまる。ステップ2とステップ3を無意識に行き来されている感じかもしれませんね。
■究極のデジタルデトックス。「何もしない」贅沢
──最後にこれから「寺活」を始めてみたいという初心者の方に向けて、アドバイスをお願いします。
山田さん: 「とりあえず行く」、これに尽きますね(笑)。
──シンプルですね!(笑)
山田さん: 難しく考えずに、お寺に行って、ただ座って、ぼーっとしてみてください。30分でも1時間でも、「何もしない時間」を持つこと。それが現代人の脳が一番求めていることなんじゃないかなと思います。
■そして、強力な仲間が加わった!
インタビューを通じて、建築家ならではの視点で「空間への没頭」を言語化してくれた山田さん。そのお話は、「やすらギまる」の新たな可能性を示す、目からウロコの連続でした。
これはもう、単なるインタビューでは終われない…。そう思った編集部の気持ちが、最後に爆発してしまいました。
──いやもう、山田さんのお話、めちゃくちゃ面白いです!「建築的な視点で空間に没頭する」というのも、立派な「やすらギまる」のスタイルですよね。これだけで本が出せるんじゃないかっていうくらい(笑)。
山田さん: ははは(笑)。ありがとうございます。
──そこでご相談なんですが、山田さん、ぜひ「寺イク?公認ライター」になっていただけませんか!?
山田さん: えっ、ライターですか?
──はい!今、編集部は東京の人間ばかりで。京都にお住まいで、こんなに素敵な視点を持っている山田さんに、ぜひ「西日本支部」として活躍していただきたいんです!
山田さん: なるほど、西日本支部(笑)。
──ぜひ「寺イク?公認」の名刺を持って、堂々と面白いお寺を取材してきてほしいなと!
山田さん: …面白そうですね。ちょうどいいタイミングですし、自分にできることだったら、やってみようかな。
──本当ですか!?やったー!ありがとうございます!!
…というわけで、寺イク?に強力な仲間が加わりました!
一級建築士・山田さんが独自の視点で切り取る、京都を中心とした「空間を浴びる寺活」レポート。今後の発信に、どうぞご期待ください!

PROFILE
山田建人(一級建築士)
京都市在住。建築設計の仕事に携わる傍ら、自身のウェルビーイングを模索する中で「寺活」に出会う。
noteでの発信が編集部の目に留まり、今回インタビューが実現。
note:https://note.com/poporo174
文・KENLOCK(寺イク?)
編集・KENLOCK(寺イク?)