メイクアップアーティスト、神社巫女、鳳笙(ほうしょう)奏者、ダンスチームリーダー、DJ……。これ、全部ひとりの女性の肩書なんです。
今回ご登場いただくのは、華やかな「美」の現場と、静謐な「祈り」の現場を軽やかに行き来する、広瀬由佳さん。一見カオスにも思えるその活動ですが、ご本人の中では全てが一本の軸で繋がっているそう。
なぜバリバリの「動」の世界にいる彼女が、神社の世界へ? そして、多くの現代人が陥りがちな「お願い事ばかりのスピ活」から脱却するためのヒントとは? エネルギッシュな対話の模様をお届けします。
■根っこは全部一緒。原点は「人を笑顔にしたい」
──いや、もう肩書が多すぎてどこから突っ込んでいいやら(笑)。メイクのプロで、神社の巫女さんで、雅楽の鳳笙(ほうしょう)も吹かれて、ダンスチームのリーダーでDJまで……。

広瀬由佳さん(以下、広瀬): あはは(笑)。そうなんです。よく言われます、「寝てますか?」って。
──ええ、本当に(笑)。これだけの活動、どうやって成り立ってるんですか?
広瀬: 実は、やってることはバラバラに見えて、根っこは全部一緒なんですよ。
──一緒なんですか!?
広瀬: はい。基本的には「人をハッピーにしたい、笑顔にしたい」っていうのがベースにあるんです。
──なるほど、笑顔! 確かに由佳さんのオーラからそれを感じます。
広瀬: ありがとうございます(笑)。美容の道に入ったのも、元々はハリウッドで特殊メイクをやりたかったんですけど、「怖い顔より、人を綺麗にして笑顔にする方がいいな」って方向転換した経緯があって。
──へえー! そこからして面白いですね。
広瀬: その後、メイクの現場だけじゃなく、クラブで8年間ネイルブースを出したり、ゴーゴーダンサーをやったりと、バリバリ「動」の世界に飛び込みました。
■ギャルマインドと神道は紙一重!? 共通点は「感謝」と「ホスピタリティ」
──そんな「動」の世界のど真ん中にいた方が、なぜ真逆の「静」の世界である神社の巫女に?
広瀬: 実は、巫女の始まりは大学一年生の頃なんです。部活の友人の先輩からの紹介で、神社の助勤(アルバイト)をしたのが最初で。

──えっ、大学生で! それが原点だったんですね。
広瀬: はい。最初は作法も何もわからなかったんですけど、不思議と違和感がなくて。そこで触れた「神道(しんとう)」の考え方が、すごく素敵だなと思ったんです。
──神道の考え方、ですか?
広瀬: はい。神道には「八百万(やおよろず)の神様」という教えがあって、石にも木にも、あらゆるものに神様が宿る。私たちは全ての物に生かされているから、全てのものに感謝を持って接しようという考え方ですね。
大学生ながらに、その感覚がスッと入ってきたんです。清浄な空気感や、感謝をベースにした考え方が肌にあったんだと思います。
■ギャルマインドの根底にある「巫女」のホスピタリティ
──なるほど。それが後の美容やダンスの活動とどう繋がるんですか?
広瀬: 大学卒業後、メイクスクールに通って、私は本格的にメイクアップアーティストとしての道を歩み始めるんですが、それと並行して、もっといろんな世界を見てみたくて。 ちょうど世の中にネイルサロンが普及し始めた頃だったんですけど、「サロンじゃない場所でやってみたら面白いんじゃないか」と思って、クラブイベントの片隅でネイルブースを出すようになったんです。
──クラブでネイル! 今でこそイベントで見かけますが、当時はかなり早かったんじゃないですか?
広瀬: そうかもしれません(笑)。でも、それがすごく好評で。結局、ご縁があって8年間もブースを出させてもらいました。 そうやってクラブに出入りしているうちに、声をかけてもらって、今度はフロアを盛り上げるゴーゴーダンサーとしても活動するようになりました。

──すごい行動力ですね。でも、そんな華やかな場所にいながら、学生時代の神社の記憶は薄れなかったんですか?
広瀬: それが、不思議と繋がったんです。 ふと気づいた時に、「あれ、メイク道具を感謝して扱うことや、ダンスでお客さんを楽しませる空気を作ることって、学生時代に神社で学んだ『人や物に対するホスピタリティ(おもてなし)』と一緒じゃない?」って。
──うわあ、ここで繋がるんですね! メイクで人を輝かせるのも、神社を掃き清めて参拝者を迎えるのも、根っこは同じ「ホスピタリティ」だったと。
■承認欲求を手放した「裏方気質」が、究極の整いを生む
──すごく腑に落ちました。お話を伺っていて思うのが、ダンサーやインフルエンサーというと承認欲求が強そうなイメージを抱く方もいらっしゃると思いますが、由佳さんからはそれがまったく感じられない点です。
広瀬: あ、それは本当にないですね(笑)。私、昔から「裏方気質」なんです。ダンスのチームリーダーをやっていても、自分がセンターに行きたいというよりは、みんなが輝ける場を作りたいタイプで。
──へえー! リーダーなのに裏方気質。
広瀬: 巫女の仕事もまさにそうで、神様と参拝者の間を取り持つ役割じゃないですか。自分の感情はフラットにして、ただの「透明な筒」になるような感覚で役割に徹するんです。

──それ、すごく面白いです。「寺イク?」では、現代人は「自分が、自分が」という自我(承認欲求など)が強すぎて疲弊していると考えていて、それを大きな存在にゆだねて手放した状態を「やすらギまる(安らぎが極まる)」と呼んでいるんです。由佳さんは、ダンスのリーダーやインフルエンサーでありながら、「自分が」というエゴがすごく少ない。だから自然体で「やすらギまっている」状態なのかなと。
広瀬: 「やすらギまる」、いい言葉ですね(笑)。でも確かに私の場合、お寺や神社に行って、特別ということはないですね。「私を見て!」みたいな感覚は昔から本当に薄いからかもしれません。
──以前インタビューした別の「達人」の方で、お祖父様が浄土真宗の僧侶で、家で日常的にお経を唱える習慣があったため、特別にお寺に行かなくても常に「やすらギまっている」状態を維持できている、という方がいたんです。
広瀬: ええ、ええ。
──その方は環境的にそうだったわけですが、由佳さんのお話を聞いていると、アプローチは違えど、結果的にそれと同じような「常に整った感覚」を持たれているんじゃないかなと思いまして。
広瀬: ああ、なるほど! それはすごく分かります。私の場合、小さい頃から日本舞踊をやっていたり、自然とそういう世界観が周りにあったのも大きいかもしれませんが……やっぱり根本的に「裏方気質」なんだと思います。
──裏方気質、ですか。
広瀬: はい。ダンスでも自分が前に出るより、みんなが楽しめる空間を作りたい。メイクでも、その人が輝くためのお手伝いがしたい。常にベクトルが「自分」じゃなくて「相手」や「場」に向いているんです。 巫女の時はさらにそれが強くて、自分という「個」を消して「透明な筒」になる感覚ですから。
──(少し興奮気味に)それだ! それこそが「やすらギまる」の極意ですよ!
広瀬: え、そうですか?(笑)
──はい! 現代人は「私がやらなきゃ、私がどうにかしなきゃ」って全部自分で抱え込むから(自力モード)、苦しくなる。 でも由佳さんは、ご自身を神様や場の空気を通すための存在だと捉えて、完全に環境に身をゆだねている(他力モード)。だから自我が肥大化せず、常に最強にやすらいだ状態でいられるんですね。
広瀬: ああ、言われてみればそうかもしれません! 無意識でしたけど、それが良かったんだ(笑)。
■現代人は呼吸が浅すぎる! 巫女が教える最強のリセット術
──それだけ多忙だと、さすがに疲れたり、心が乱れたりすることもありますよね? どうやってリセットしているんですか?
広瀬: やっぱり「呼吸」ですね。現代人って、みんな呼吸が浅すぎるんですよ。
──すごく思いあたります(笑)。
広瀬: 巫女の修行や神事の作法って、すごく深い呼吸を意識するんです。私が吹いている雅楽の鳳笙(ほうしょう)も、ものすごく肺活量を使います。この「深い呼吸」が、強制的に心身をリセットしてくれるんです。

──それも「寺イク?」でインタビューした方達と合致します。寺活に行く前は呼吸が浅かったのに、お寺に行った後は呼吸が深くなるとおっしゃる方が多いです。
広瀬: やっぱり! 情報過多で頭がパンクしそうな時、人は無意識に呼吸を止めていますから。神社やお寺に行ったら、まず深呼吸を意識してみてください。体の中の空気を全部入れ替えるイメージで。それだけで、脳が酸欠状態から脱して、フッと視界が開けますよ。
■脱・お願い事! 「感謝」を伝えることが最強のスピ活
──最後に、巫女さんとしての立場から、現代の「スピ活ブーム」をどう見ているか教えてください。
広瀬: 若い方が神社やお寺に興味を持ってくれるのはすごく嬉しいです。でも、お正月だけ来て「あれも叶えて、これも叶えて」とお願いばかりするのは、ちょっともったいないかなって。
──耳が痛い人も多そうです(笑)。
広瀬: 以前、あるカメラマンさんに言われた例え話がすごく腑に落ちたんですけど……。
毎日、街角に立ってくれているお地蔵さんがいるとして、普段は素通りして挨拶もしない人が、年に一回だけ来て「幸せにしてください!」って言ってきたら、お地蔵さんはどう思う? って。
──うわあ……。「お前、都合いいな」って思いますね(笑)。
広瀬: ですよね(笑)。それよりも、毎日通るたびに「おはよう、いつも見守ってくれてありがとう」って言ってくれる人がたまにお願いしてきたら、どっちの願いを叶えたい? って話なんです。
──ハッとさせられますね。その通りだと思います。
広瀬: 神様仏様は、都合のいい願いを叶える魔法使いじゃありません。日々の平穏な暮らしを見守ってくれている存在。
だから、神社やお寺は「お願い」をしに行く場所ではなく、まずは「日頃の感謝」を伝えに行く場所であってほしいんです。

──「どうにかして願いを叶えなきゃ」と力んでいる状態(自力モード)から、「いつもありがとうございます、あとはお任せします」と感謝してゆだねる状態(他力モード)へ。そのシフトチェンジこそが、重要なんですね。
広瀬: そうですそうです。難しく考えず、もっとライトに神社やお寺と付き合ってほしいですね。散歩のついでに寄って、手を合わせて「今日も元気です、ありがとう」って伝える。それだけで十分、最高の「寺活」になりますよ。
──今日はお忙しいところパワーをたくさんいただけるようなお話を沢山ありがとうございました!寺活でもスピ活でもビギナーの皆さんの参考になることばかりでしたので読者の皆さんも喜んでくださると思います。

PROFILE
広瀬 由佳(ひろせ ゆか)
メイクアップアーティスト /「願いの宮」巫女 / 鳳笙奏者 / ダンスチームリーダー / DJ / インフルエンサー
3歳から日本舞踊を始め、伝統文化に触れる。美容の現場で培った「人を輝かせる技術」と、神職の現場で培った「祈りと感謝の心」を融合させ、多方面で活動。SNSでは、心身を美しく整えるためのヒントや、ポジティブなマインドセットを発信し人気を集める。
写真提供・広瀬由佳
文・KENLOCK(寺イク?)
編集・KENLOCK(寺イク?)