お寺でEDMを流して、漫才して、怪談に法話、ライブまでやるフェスが開かれる?!

金戒光明寺の山門

会場の本堂前には長蛇の列
浄土宗・大光寺の副住職である河村英昌さんから取材のお誘いを受けた。正直に告白すると、私は少し訝しんでいた。
「音楽に怪談、お笑い……いくらなんでも要素が多すぎないか? 一体どうやって一つのイベントとして成立させるのだろう。そして何より、なぜそれをわざわざ『お寺』でやる意味があるのか?」と。

THE極楽NIGHTのフライヤー
しかし、そんな私の疑問は、いい意味で粉々に打ち砕かれることになる。
舞台は京都・黒谷の金戒光明寺。結論から言えば、そこは笑いと感動、寺院空間へのリスペクト、そして深い祈りが交差する、かつてない「究極のエンタメデトックス空間」だったのだ。
■ 850年の大本山で響き渡る、4・4・1・1のビート

金戒光明寺の本堂

金戒光明寺の本堂
会場となった金戒光明寺の大方丈は、法然上人が初めて草庵を構えた浄土宗の大本山である。鎌倉時代から続く歴史はもちろん、江戸時代には1000人規模の会津藩士が集い、あの新選組が結成されたという超ド級の歴史的空間だ。
主催でMCを務める仏像大好き芸人・みほとけさんの明るい声でイベントが幕を開ける。

既に熱気溢れる開演時の様子
まずは河村さんの先導で、浄土宗の基本であるお念仏からスタートした。「同称十念(どうしょうじゅうねん)」の合図とともに、参加者全員で「南無阿弥陀仏」を唱える。

お念仏と合掌のレクチャー

お念仏と礼拝
河村さんの教えに従い、「ナムアミダブ」を4・4・1・1のリズムで10回唱えていく。エンタメであっても、しっかりと寺院空間へ敬意を払い、演者と来場者全員で礼拝する行為が、心地のいい一体感を作り出していくのを感じた。
■ 般若心経で踊り、B’zで笑う。お寺が「狂喜乱舞」の場に
心が静まったのも束の間、イベントは一気に「動」へとシフトする。

プロデューサーのニヘイさんとみほとけさん
ニヘイさんがプロデュースしたという「般若心経EDM」が堂内に鳴り響き、「踊るポンポコリン」を手掛けた香瑠鼓先生の振り付けに合わせて、満席の参加者が一斉に踊り狂うのだ。

般若心経EDMで一体になって踊る来場者
続いては、浅井企画所属のお笑いコンビ「ドドん」が登場。

「ドドん」のお二人

大爆笑に包まれる会場
ボケの石田さんは曹洞宗の本当のお坊さん、ツッコミの安田さんは葬儀社勤務という異色コンビだ。「お葬式で何万も集まる」「ファンレターに心霊写真が入ってくる」とリアルすぎる業界ジョークを飛ばし、最後はB’zの「ウルトラソウル」ならぬ「ウルトラ僧(ソウル)!」で大爆笑をさらう。
仏様の前でこんなに笑っていいのか? と感じるくらいにお腹がよじれる。この圧倒的な熱気の中に身を置いていると、凝り固まっていた心が解けていくのを感じる。
■ 畏れと気づき。感情のジェットコースターが導く「発心」
笑いで火照った体を急激に冷やしたのは、古典怪談の語り部・満茶乃(まさの)さんの怪談だった。

満茶乃さんの古典怪談

終盤の語り・会場が恐怖に包まれる
「自分が亡くなっても二度と他に妻を娶らない」という約束を反故にされた前妻の怨霊による恐ろしい復讐劇を描く物語。その遺言通り、漆を塗られた黒い亡骸が、「約束破らはったんやね」と夫の新しい妻たちの首を次々とねじり取っていく恐ろしい物語だ。背筋が凍るような「畏れ」の感情もまた、人間の持つ業(カルマ)を深く見つめる仏教的な体験とクロスオーバーしていくような不思議な時間だった。それにしても語り手の技量も素晴らしかった。しばらくお顔を見るだけで怖くなってしまうくらいであった。
そして、感情の波状攻撃の後にスッと心に沁み込んだのが、H-1法話グランプリ2023で優勝した小谷剛璋住職(岡山県・福王寺)の法話だ。

小谷剛璋住職の法話

法話終了後の温かい会場の様子
得度したばかりの青年がインドへ渡り、インド仏教界の最高指導者・佐々井秀嶺氏と出会いあれよあれよと大活躍していってしまうというエピソード。小谷住職はこれを例に挙げ、「日常の揺らぎの中に仏教に関心を持つ『発心(ほっしん)』の瞬間がある」と語りかけた。
EDMで踊り、漫才で笑い、怪談で怯え、心が丸裸になった状態だからこそ、この「発心」という言葉が、乾いたスポンジのようにスッと自分の中に沁み渡っていくのがわかった。
■ 江戸時代への回帰。現代人に必要な「極楽」の形
イベントの熱気を最高潮に引き上げたのは、仏教エンターテインメントバンド「THE南無ズ」のライブだ。

「THE南無ズ」の熱気溢れるライブ
大本山・永平寺の偉い方から「怒られるぐらいがいいんだよ」とお墨付きをもらえたという彼ら。「右が仏、左が僕らの世界」と合掌の意味を伝えながら、最後は驚愕の「コール&テラポンス」が発動する。
「金閣!」「寺(テラ)!」
「清水!」「寺(テラ)!」
「伏見稲荷!」「神社でしょ!鳥居すごいから!」

笑いとボルテージが最高潮に達する会場
大本山の本堂で、いい大人たちが「寺(テラ)!」と叫ぶ。童心に戻ったかのような一体感の中で、私の頭の中にあった日常の雑念は完全に消え去っていた。

舞台に集まる演者の皆さん

コメントする河村さん

笑顔のみほとけさん

終演の挨拶

物販売り場の様子

終演後の本堂

終演後の河村さん
最初に戸惑ってしまった自分を恥じたい。ここにあったのは、浅はかなお寺活用のエンタメなどではない。
考えてみれば、昔のお寺は仏教を説くだけの厳格な場所ではなく、人が集い、見世物やエンタメ興行が行われる「文化と娯楽の中心地」でもあった。EDMで踊り、漫才で笑い、怪談で悲鳴を上げるこのカオスな熱気は、まさに江戸時代以前のお寺が持っていた本来のエネルギーそのものなのだ。このフェスは、奇をてらった新しい試みというよりも、むしろ「かつてのお寺の姿への回帰」だったと気づかされる。
現代人が押し殺している多様な感情を解放し、再び明日を生きる活力を与えてくれる、本気の仏教ウェルネス。
帰り道、京都の夜風に吹かれながら、私の心と体はサウナで感じる「ととのい」を超えた感覚。いわば極上の“やすらギまる(やすらぎ+極まる)”感覚に包まれていた。かつての活気を取り戻したこのお寺の熱気と感覚に、皆さんもぜひ触れてみてほしい。

満足感に満ち溢れて会場を後にする人たち

楽しげに石畳を歩く来場者

終演後、山門へ続く階段
次はどこのお寺で「発心」しようか。そんなことを考えながら、私はそっと手を合わせて会場を後にした。
写真/KENLOCK(寺イク?)
文・編集/KENLOCK(寺イク?)